大判例

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新潟地方裁判所 平成6年(わ)97号 判決

本籍

新潟県糸魚川市寺町三丁目四五九番地一

住所

同 上越市大字中門前一四番地五二

会社役員

小川一雄

昭和二一年五月一日生

本籍

新潟県西頸城郡名立町大字名立大町一七〇七番地の一

住所

右同所

行政書士

細谷光男

昭和一二年九月二七日生

右小川一雄に対する所得税法違反、細谷光男に対する所得税法違反、税理士法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官錦織聖出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人小川一雄を懲役一年及び罰金一五〇〇万円に、被告人細谷光男を懲役一年に処する。

被告人小川一雄においてその罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日からいずれも三年間、それぞれの懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人小川一雄は、新潟県上越市大字中門前一四番地五二に居住し、同市加賀町三〇六四番地一において「ホテルカサブランカ」の名称でホテルを経営しているもの、被告人細谷光男は、同県西頸城郡名立町大字名立大町一七〇七番地の一に居住し、行政書士を営み、被告人小川一雄の経理全般を担当していたものであるが

第一  被告人両名は、共謀の上、被告人小川一雄の所得税を免れようと企て、同人の所有していた善忠株式会社の株式の譲渡所得及び同人の義兄である丸澤勇の不動産取引に関して受取謝礼金の所得があったにもかかわらず、その所得を除外する方法により所得を秘匿した上、平成三年分の実際総所得金額が九四〇三万七二三六円で、分離課税である株式の譲渡所得金額が八八二一万二〇〇〇円(別紙一修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一三日同県上越市西城町三丁目二番一八号所在の所轄高田税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が四〇三万七二三六円で、分離課税である株式の譲渡所得金額がなく、これに対する所得税額はすべて源泉徴収された税額を控除すると一四万六五〇〇円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五九三〇万一二〇〇円と右申告税額との差額五九四四万七七〇〇円(別紙二ほ脱税額計算書参照)を免れた

第二  被告人細谷光男は、税理士でなく、かつ、税理士法に別段の定めがある場合でないのに、業務として、別紙三・一覧表記載のとおり、平成三年五月三〇日ころから平成五年九月二七日ころまでの間、前後三四回にわたり、新潟県西頸城郡名立町大字名立大町一七〇七番地の一の自宅等において、有限会社エッチ・エスワールドほか一二名の求めに応じ、同会社などの法人一一社の法人税確定申告書等合計三〇通及び長谷川清など個人二名の所得税確定申告書合計四通をそれぞれ作成し、もって、税理士業務を行った

ものである。

(補足説明)

一  被告人小川一雄の弁護人は、被告人小川一雄が取得した合計九〇〇〇万円は本件蟹池の土地の売渡し代金(譲渡所得)であり、雑所得ではない旨の主張をするので、若干補足して説明する。

関係証拠によれば、本件蟹池の土地は生活能力のない被告人小川一雄の妻の兄丸澤勇の所有であって、同被告人は右土地に何らかの権利を有するものではないことが認められる。してみると右土地の売買代金を譲渡所得として得られるのは右丸澤勇のみであって、同被告人が右売買に関して受領した金員は、それが売買代金の一部であったとしても、また名目の如何を問わず、譲渡所得ではなく雑所得であると解する。

二  被告人細谷光男は、本件税理士法違反の行為につき、行政書士の業務の範囲内である旨供述しているので、若干補足して説明する。

行政書士法一条各項、税理士法五一条の二、五二条の法意に照らせば、本件法人税確定申告書等及び所得税確定申告書の作成が行政書士の業務権限外の行為で税理士法違反にあたることは明らかである上、関係証拠によれば、日本行政書士会連合会などが、右に添う業務案内をしていること、被告人細谷光男は、本件以前から糸魚川税務署の職員から同被告人の行為に税理士法違反の疑いがある旨指摘を受けていたことなどが認められ、これらの事実に徴すれば、被告人細谷光男の主張は到底是認できない。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人細谷光男の当公判廷における供述

一  被告人細谷光男の検察官に対する平成六年四月三〇日付け(四丁のもの)供述調書

判示冒頭及び第一の事実について

一  被告人小川一雄の大蔵事務官に対する平成五年三月二四日付け質問てん末書

判示冒頭及び第二の事実について

一  被告人小川一雄の検察官に対する平成六年四月三〇日付け(本文四丁のもの)供述調書

一  日本行政書士会連合会会長作成の「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面

判示第一の事実について

一  被告人小川一雄の当公判廷における供述(被告人小川一雄について)

一  被告人小川一雄の第二回及び第一一回公判期日における各供述(被告人細谷光男について)

一  第三回公判調書中の被告人小川一雄の供述部分(被告人細谷光男について)

一  被告人小川一雄の検察官に対する平成六年四月一八日付け、同月三〇日付け三通(本文五丁のもの及び本文六丁のもの二通)、同年五月一日付け二通及び同月二日付け各供述調書

一  被告人細谷光男の検察官に対する平成六年四月二〇日付け、同月二六日付け、同月二九日付け(二通)及び同月三〇日付け(本文四丁のもの)各供述調書

一  被告人小川一雄の大蔵事務官に対する平成五年四月一日付け質問てん末書

一  山崎泉(三通)、今村陽樹、椿原惇、金子福三郎こと金福鎬(二通)、小林千恵子(四通)、鴨居秀男、児玉敬重(二通)、山崎晃(三通)、高野信平、小林富佐夫、丸澤勇、池嶋義和及び佐藤信雄の検察官に対する各供述調書

一  検察事務官作成の平成六年四月二〇日付け(二通)、同月三〇日付け(一七通)及び同年五月二日付け各捜査報告書

一  高田税務署長作成の回答書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書、修正損益計算書、雑所得(不動産取引受取謝礼金)調査書、株式譲渡収入調査書、株式取得原価調査書、株式支払手数料調査書、有価証券取引税調査書、その他所得(事業所得)調査書、増差所得金額調査書、定期預金調査書、割引債券調査書、貸付金調査書、出資金調査書、事業主貸調査書、事業主借調査書、借入金調査書、未払有価証券取引税調査書、その他所得(事業貸付金)調査書、増差所得金額(貸借)調査書及び検査てん末書三通

判示第二の事実について

一  被告人細谷光男の検察官に対する平成六年四月三〇日付け(本文九丁のもの)供述調書

一  横山光義、小山仁作、牛木恒雄、長谷川清及び坂井孝一の検察官に対する各供述調書

一  深井和子及び白砂弘幸の検察官事務取扱検察事務官に対する各供述調書

一  日本税理士会連合会会長作成の「税理士登録の有無について(回答)」と題する書面

一  日本弁護士連合会事務総長作成の「回答」と題する書面

一  日本司法書士会連合会会長作成の「捜査関係事項の照会について(回答)」と題する書面

一  日本公認会計士協会会長作成の「公認会計士等の登録に有無について(回答)」と題する書面

一  検察事務官作成の平成六年四月一二日付け、同月二二日付け及び同月二九日付け各捜査報告書

一  検察事務官作成の報告書二通

(法令の適用)

被告人小川一雄の判示第一の所為は刑法六〇条、所得税法二三八条に該当するので、懲役と罰金を併科することとし、その所定刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役一年及び罰金一五〇〇万円に処し、同被告人が右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとし、被告人細谷光男の判示第一の所為は同法六〇条、所得税法二三八条に、判示第二の所為は包括して税理士法五九条、五二条に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に同法四七条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(検察官求刑、被告人小川一雄懲役一年及び罰金二〇〇〇万円、被告人細谷光男懲役一年)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本武久)

別紙1 修正損益計算書

別紙2 ほ脱税額計算書

別紙三 一覧表

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